ヴォストロヤの行進が止まる
雪化粧で混乱の名残を覆い隠す廃市街地。
「止まれ」各小隊へ短い号令がかかった。
軍曹は左右に警戒の目を光らせ、戦車の索敵センサーは目を凝らす。髭に乗った雪は静かな吐息で消えた。
「怪物だ!」
その姿を真っ先に捉えたのは盲目のアストロパスだった。
打ち方用意
目標地点は目と鼻の先…!
そう憤りつつ、指揮官は射撃命令を下す。2列横隊を組んだ歩兵分隊が素早く展開し、ラスガンの槍衾で大通りを塞ぐ。
金切り声をあげ飛来する怪物。兵士達は五臓六腑が捩れ、鳥肌立つ錯覚を覚えた。
「前!撃て!」
敵、第二波接近
赤いラスガンの猛射とプロメチウムの奔流が第一陣を撃退する頃、ステンドグラスのすっかり抜け落ちた廃聖堂に迂回した別小隊がヴォクスにそう叫んだ。
遠方には背負った装置から焔を吹き出し跳躍する異形の群れ。
各小隊、戦線を…
ラスガンの槍衾は一瞬で凄惨な屠殺場と化した。
銃剣も銃床も、もはや武器とは呼べる世界ではない。骨の砕ける小気味の良い音と生臭い騒音が全てだった。
しかし、凄惨な遅滞防御はレマン=ラスの砲声で報われる事を彼等は知っていた。
忌々しい駄犬共め
突貫した異形の戦士は大口径砲の跳弾と爆発で深手を負いつつ、手にした戦鎚で車体を打ちのめす。
長子兵は剥き出しの二階から素早くラスガンを構え狙いを定める。
彼等は廃墟と雪中を故郷とする、長子兵である。
進出!進出せよ!
遅滞防御は兄弟と異形の亡骸を斑色の絨毯に変えた。
そして履帯と排煙が雪景色を泥水に変えた。
《こちら歩兵分隊、現在市街右翼へ進出中》
残存小隊は本来、彼等が目指していた目標地点へ到達した。
ラスガンで残敵を掃討し、盲目のアストロパスに導かれ街路を縫うように前進する。
《翡翠色の大逆兵団、及び目標を消失》
皇帝と万機神の名において、敵を市街地から放逐した。
しかし彼等は間に合わなかったのだ。
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